ファーストレベルの最終目的は看護管理実戦計画書の作成です。それまで履修した科目(ヘルスケアや組織論など)の知識を持ち寄る計画書はまさに集大成、しっかりと作れば現場に戻っても活用できるものになります。
このページは『看護管理実践計画書』について
- 看護管理計画書ってなに?
- 看護管理計画書の内容は?
- 現状分析の考え方や書き方を知りたい
- 課題の見つけ方
といった内容を記載しています。少しずつ編集を加えていきます。。
作業は面倒ですが、看護過程のように順番にやれば大丈夫です。
看護管理実践計画書とは?
看護管理についてはいろんな言い回しがあります。
ここではその代表として看護協会と聖路加国際病院の定義を見てみましょう。
看護協会
看護協会HP 参考はこちらのP38
看護管理者とは、看護の対象者のニーズと看護職の知識・技術が合致するよう計画し、財政的・物質的・人的資源を組織化し、目標に向けて看護職を導き、目標の達成度を評価することを役割とする者の総称をいう。(下線の部分が看護管理の定義)
聖路加国際病院
聖路加国際病院HP
「看護管理とは、看護が効率的にそして倫理的に行われ、その目的が果たせるように環境を整え、実践者を支援すること」
この看護管理を果たすための計画を『看護管理実践計画』、それを見やすく形式化したものが『看護管理実践計画書』です。
看護師の本務は『良質な看護の提供』
それができる看護師を教育し、サービス提供の仕組みを作るのが看護管理です。
「看護管理実践計画書」は何のために作る?
時代は変わり、求められる医療・看護は変化します。変化に対応出来ない組織は生きていけません。
我らが?ナイチンゲールも『進歩し続けない限りは、 後退していることになるのです』とおっしゃっています。
そのため、看護管理者は自組織を『求められる理想の姿』に近づけるために現状分析、課題の明確化、対策を繰り返す必要があります。
ここで注意すべきなのは、たとえ高度な分析に基づいた計画であっても、自分以外の者に伝わらないのでは意味がありません。立てた計画は”スタッフに伝え、実行してこそ”なのです。
そのためには、『計画の見える化』を行う必要があり、管理者は『看護管理計画書』によって自組織の構成員にビジョンを示します。
現在お国は医療費抑制のために『入院期間短縮化』やそれに繋がる専門性の高い医療を求めています。
国には診療報酬を調整することで、医療のカタチを整える権力があるため、変化することが出来ない医療組織は収益が下がり消えるのみ。
そうならないように、看護管理者は組織の変化を引率する役割があります。
「看護管理実践計画書」の項目・構成は?
看護管理計画は『問題解決のプロセス』です。
計画の流れは以下のようになります。
「看護管理実践計画の立て方」の順序
- 背景・動機
- 現状把握:自部署の紹介(データ)、理想の姿
- 現状分析:各種フレームワークで
- 課題の明確化
- 目標を設定する
- アクションプラン
- 実施・評価とプランの修正
このうち、ファーストレベルの期間中に求められるのは1〜6のアクションプランを書式化するところまでです。
あとは部署に戻ってから実施してください
実践報告会の参加を楽しみにしてますよ〜
という感じで、一年後とかに希望者のみ実践報告会があります。
ということは、自分の立場で実践可能な計画じゃないといけません。まだ管理職でない人が人事のことを計画しても実行できないので無駄ですね。
看護管理実戦計画書は何をみて学ぶ?参考書はまだ少ない…
「ファーストの最終レポートでは計画書を作る」と言っても、事前に買わされた『学習テキスト』にはその作り方なんて書かれていません。これが一番困った点でした。
そんな中で唯一たよりとなったのが「佐藤美香子著:看護管理実践計画書標準テキスト」です。(受講生みんな買ったり見せあったりしていました)。会話形式で計画立案から修正まで解説され、事例も豊富なので施設や領域を問わず参考になると思います。
上の本がよく売れているからでしょうか、2020年秋には看護の本でお馴染みの”原玲子先生”も本を書いています。原先生の著書が合う人はこちらも良いかもです↓↓
また、そもそも文章を書くのが苦手!という人は、本で文章の書き方を読むのをまずお勧めします。頭では分かるけど文章化できない時は本を読むとすらすら書けます。
看護管理実戦計画書 まずは現状把握
何をやるにも、まずは現状把握です。
現状把握で知るべき対象は2つあります。それは、自組織の「現状」と「理想像」です。
この理想像はその時々で変化するもの、なので「理想像の現状を知る」が、適切な表現かもしれません。ファーストのカリキュラムでは「ヘルスケアシステムⅠ」が最初の講義になります。それは、まずヘルスケアシステムで現在の医療に求められているものを知り、自部署の役割を考えることが看護管理の出発点となるからです。
把握すべきは『理想の姿』と『自部署の現状』
地図を見ながらある目的地に行く場合、まず今いる場所(現在地)が分からないと、進むべき道のりは分かりません。
看護管理実践計画書で用いる
「理想の現状」=「目的地」
「自部署の現状」=「現在地」と置き換えることができます。
そのズレが「問題」であり、到達するための動きが課題・対策となります。
理想の現状と自部署の現状の違いが問題
理想は変化します。
なので、理想の現状を知る事が大切です。
例えば、昔の集中治療の理想は「患者を鎮静剤で眠らせて体力の消費を抑えた状態で治療を進める」でした。ICUの患者は寝たきりで人工呼吸器などの機械に繋がれている。というイメージです。
しかし、現代のICUでは「動ける患者にはリハビリをさせて身体機能の廃用を予防する」が理想となっています。
真逆ですね、なぜ変化したのでしょうか?それは研究が進んで医療が変わったからです。
早期リハビリは入院期間短縮や退院時のADL保持に有効と考えられているため現在では国も加算を付けて後押ししています。
まとめると、現在では「早期リハビリが出来るICU」が理想であり、各施設のICUにおいては『早期リハビリが行える体制づくり』が課題となっています。
このように、時代によって理想は変化し自部署との違いが生じます。
理想と現状が一致しているのが理想的、違いがあるのは『問題』があると言います。
『現代の理想』の知り方
組織における「理想」とは、その組織の「あるべき姿」です。
この、あるべき姿については、現在の世相が影響するためヘルスケアシステムが大事な教科になります。ヘルスケアシステムで社会が自部署に求めている機能を考える事ができます。
ただ、受講前のファーストの募集レポートでも問題や課題を問われることがあるので
ヘルスケアシステムを受講するまで待てません!
という方もいるでしょう。そんな時は「自分の施設がやっていることから遡る」のも1つの手段です。
次の章で解説します。
国の政策までさかのぼるとハッキリする
ヘルスケアシステムを受講すると「日本の医療福祉の問題点→国の課題→政策→各施設の課題→自施設の課題→取り組み」と言うように医療の全体像を俯瞰できます。
これは、逆に辿っても良くて、「自分の施設が取り組んでいること(入退院支援強化など)がなぜ大切なのか?」という視点で、国の動きまでさかのぼっても理解が深まります。
授業とは逆の流れですがピンポイントに学習できます。
ヘルスケアシステムは学生以降、学習が止まっていた分野でした。
受講して、なぜ今、国がICUのリハビリに加算を付けているのか?在宅医療への移行を進めているのか?などの疑問の答えが1つに繋がりました。
自部署の現状把握は『 6W3H 』と『数値化・比較』でやる
自部署の問題を他人に伝えるためには客観的視点が必要です。
客観性をもつために『6W3H』の視点で問題をとらえましょう。
問題の性質によっては全てを当てはめることが出来ないこともありますが、多方面から見つめることで気付きがあり、人に説明しやすくなります。組み立てれば文章にもなりますね。
現状は数値でを使って具体的かつ客観的に伝える
自部署の現状を知るには”各種数値のデータをとり他所と比較”します。
比較する事で、自部署ができていない事がハッキリしますね。
この数値で比較する方法はとても大事。それだけで具体的かつ客観的な記載になるためしっかりとデータを採取します。
各種委員会がまとめた数値を厚労省や学会が出した数値と比較しました
すると
- 褥瘡発生率・・・水準以上
- 個人防護具や手指衛生回数・・・水準以下
- 離職率・・・水準と大きく違いなし
- 入退院支援・・・水準以下
- 早期リハビリ・・・水準以下
などの自部署の現状が分かってきました
現状分析
理想と自部署の現状が把握出来たら現状分析、2つの手法を紹介します。
- PEST分析:自部署の外部環境の分析
- SWOT分析:内部環境と外部環境の分析
まずPEST分析で外部環境をよく分析し、SWOTで自部署の特徴と掛け合わせます。
PEST分析 〜コントロール困難な外部環境〜
マクロ分析には PEST分析です、マクロというのは「大規模・大きな」という意味で、対義語はミクロで「小さな」となります。
意味 | 例えば | |
Polotics | 政治 | 診療報酬・医事法・保助看法 |
Economics | 経済 | 失業率・GDP・医療費 |
Society | 社会 | ワークライフバランス・少子高齢化 |
Technology | 技術 | 新技術・電子カルテ・ロボット支援 |
マクロというだけあって大きな問題ばかり、PEST分析は基本的に手が届かない壮大な現状分析になります。
SWOT分析 〜内部環境と外部環境の分析〜
SWOT分析で現状分析、課題発見を行い
クロスSWOTでは課題解決への対策を決めます。
SWOT分析で「あるべき姿」の実現に関連する情報を整理したら、次は『クロスSWOT分析』で課題解決のための対応策を検討します。
現状分析が崩れると計画が台無しになります
カーナビに例えると現状分析=現在地情報です。今いる場所が分かっていないと「これからどっちに進めばいいのか」正確な道案内はまず不可能。計画の基礎にあたる部分なので一番時間をかけてよく分析しましょう。
現状分析で要素の洗い出しが出来れば、後は理論に沿って組み立てるだけ。最初が肝心です。
ちなみに、実践計画書ができていれば全てのレポートを簡単にすますことができます。
クロスSWOT分析 〜4種類の対策〜
クロスSWOT分析では、 SWOT分析で振り分けた『強み、弱み、機会、脅威』の情報をクロス(かけ合わせる)ことで、課題解決のための対応策を導き出すことができます。
前回のSWOT分析ではこのような表ができました
問題:ICUでの早期リハビリが出来ていない↓
これをクロス(かけ合わせる)、すると4種類の対策が導き出されます
強み×機会=積極的戦略 強みを強化し機会は最大限にいかす
例:早期リハビリの良いエビデンスを広げ、リハスタッフと協働し豊富な人員を活用する。
強み×脅威=差別化戦略 強みで脅威を最小限にする
例:リハ室からの物品調達、その他の設備は人員を組織化して準備する。
弱み×機会=段階的対策 弱みを打ち消す対策を考える
例:スタッフ教育にはリハビリスタッフからの勉強会を検討、診療報酬加算での収益化を見える化する
弱み×脅威=最悪を回避する対策 弱みを最小にし脅威に備える
例:目標を明確に周知して早期にシステム(マニュアル作成)、病棟全体の業務を調整する
今回はサンプルの問題ですが、実際にはSWOTの各項目がそれぞれ 強み1.2.3…と複数あるでしょう。それぞれをクロスするともっと沢山の対策がでてきます。